第13回 質の粗い人間よっといで!『バチアタリ暴力人間』
どうも、ジロウです。
夏が本格的に喧しくなってきました。
先日も、「アチイんだよ!」と怒鳴りながら虚空に拳を振るっている人を見ましたが、
例年通り、熱で脳をやられたキチガイがポツポツ現れ始めていますね。
全く困ったもんだなぁ、などと常識人面している私も、
元が怪しいところに更にドン!ですから、決して他人事ではありません。
人間は突然発狂する場合もままありますが、
やはり一番の原因は日々蓄積する暴力衝動です。
それは1日1度は訪れる発狂の瞬間をやり過ごしているうちに溜まっていくもので、
こいつが溜まって夢の島状態になると、些細なことで大爆発を起こし、
まぁ2桁は軽いでしょうという大惨事を引き起こしてしまいます。
最近多い凄惨な事件、ああなったりこうなったりしないためにも、
溜まったら抜け!を心掛けて、この夏を正気でやり過ごしましょう。
今回はそんな命の綱渡りにお役立ちな、抜ける一本をご紹介です。
『バチアタリ暴力人間』
主演 白石晃士 笠井暁大 山本剛史
白石晃士監督は私が最も信頼している映画監督の1人で、
裏切られたことなんて、4回ほどしかありません。
本作はPOVという白石監督が得意とする手法で撮影されています。
簡単に言うと1人称、撮影しているカメラからの視点で進む作品ですね。
代表的な作品として『ブレアウィッチ・プロジェクト』が挙げられます。
POV作品はその『カメラで撮ってる』という建前上、
リアルに寄らざるを得ません。
白石監督はこの弱点になり得る部分を逆手に取って、
「リアル」だった物語を宇宙の彼方までぶっ飛ぶ超展開に持っていってしまうのです。
実録調だったのに、気が付くと河童と相撲を取るハメになっていたりします。
本作にもその技術は遺憾なく発揮されていまして、
エスカレートしていく無茶苦茶に梯子を昇らされ、気が付けばそこは宇宙。
脳みそカエルのゆで殺し状態で、取り合えずあらすじ見ていきましょうかね。
あらすじ
お話は低価格ホラーの定番ジャンル・心霊ビデオ物の撮影から始まります。
心霊ビデオといえば、廃墟や殺人現場に行って何か心霊現象を撮影するものですが、
その撮影にはとんでもないものが映り込んでいました。
何が映っていたかというと、チンピラです。
みんな大好き丹下先生という霊媒師の元に、
「最近競馬ですったから」という理由でやって来た二人組のドチンピラ。
元々、心霊ビデオの視聴者参加企画で、その除霊風景を撮影するはずだったのですが、
みんな大好き丹下先生の除霊が殴る・蹴る&罵倒という芸風だったのが悪かった。
案の定、逆上した二人はみんな大好き丹下先生をぶちのめし、
カメラの前で「私はインチキですと言え!」と脅迫するなどやりたい放題。
製作側からすると悪夢の極みような撮影ですが、悪夢はまだまだ始まったばかりです。
撮影がワヤになった後、事務所に戻った撮影班を待っていたのはさっきのチンピラ。
「ギャラ払え、今後も俺たちを使え」
と、撮影ぶち壊しといて要求しますが、当然こんなキチガイ使えません。
断ろうとする白石君(監督兼主演)。
次の瞬間、白石君のどてっぱらに鋭いヤクザキックがめり込みました。
理屈を言ったところで無駄な努力です。
何を隠そう、この2人こそが暴力で全てを解決する暴力人間。
彼らを撮影に加えた地獄の『映画作り映画』のスタートです!
はっきり言わせていただくと、
『地獄でなぜ悪い』よりもよっぽど地獄です!!!
彼らの暴力人間っぷりたるや凄まじく、
この映画に登場するキャラクターで彼らの暴力に曝されない人間はいません。
また、3名の女性キャラが登場しますが、
1人は強姦未遂、
1人は旦那の前で強姦&暴行、
1人は殴って攫って犯して棄てたというのですから元気ハツラツですね。
単純な殴る蹴るに留まらず、
恫喝、恐喝など手練手管を駆使して他人をいたぶる彼らの姿に、
学生時代の厭な記憶がフラッシュバックすること請け合いです!
このガッツゥーン!という漫画的じゃない暴力が本当に最高!
派手さはありませんが、「人を支配する」という暴力の恐ろしさは中々観れません。
殴られると泣くとか痛がるではなく、段々無気力で無抵抗になっていくんですよね。
実際のところ、人間は軽く4~5回引っ叩いて「オォイッ!」とでも恫喝すれば、
精神力0のフニャフニャな無気力状態になってしまいます。
私も経験あるので本当に良く分かりますよ!
一番の被害者は勿論、彼らと行動を共にする撮影班。
「饅頭買ってきたから、犬みたいに這いつくばって食え」
など、えげつないイジメを粛々と受け入れながら続く撮影に、
スタッフたちの間からも、まるで人間めいた不満が噴出。
一人また一人と撮影から抜けていきます。
そんな状況で一人ギラついた目をしているのが監督の白石君。
彼はインチキまみれの心霊ビデオ作りに飽き飽きしていました。
暴力人間は滅茶苦茶ですが、奴らと作る映像には手応えを感じる。
プロデューサーからは撮影中止を告げられ、
長年苦楽を共にしたスタッフたちは逃げ出そうとし、撮影は危機に陥ります。
しかし、燃え上がるクリエイター魂の前には些細な事。
暴力人間仕込みのヤクザキックで道理を押し通します!
暴力人間3号・白石晃士の誕生です!!!
さてここからは歯止めの効かなくなった3人の暴力人間どもが悪態の限りを尽くし、
最終的にはみんなで仲良くケツを並べて糞まみれファックで終了です!
質の粗い人間のための青春映画
はてさて、そんなこんなですよ。
とにかく全編通してバイオレンスで不穏な空気が漂いますが、
実のところこれは笑いあり、涙ありの「青春映画」です。
登場人物が全員出来の悪い人間で、その中でも特に粗製なのが2人の暴力人間。
彼らは馬鹿で貧乏で、気が狂っていて最低で、空っぽな人間です。
お話の最終盤で、そんな彼らが空き箱の様にベコベコに凹まされる展開が訪れます。
そんな彼らに再起を促し、焚きつけるのが彼らに感化された暴力人間3号・白石君。
他に何もなくても暴力こそが俺たち。
天罰上等!反省無用!地獄上等!
俺たちは暴力人間だぁぁぁぁーーーーっ!!!!
と、はた迷惑な自己実現を遂げる様は、この上なく爽やかで心が燃え上がる瞬間です。
『地獄でなぜ悪い』『リトル・ランボーズ』『ブリグズビー・ベア』等々。
映画作りを主題にした青春映画は数多くあり、どれも大変良い作品ですね。
しかし、その中でどれが一番好きかというと、
私は本作、『バチアタリ暴力人間』を選びます。
どいつもこいつも、見た目から伝わってくるド底辺。
才能無し、やる気なし、展望無し。
ついでに言うと本当に彼らは映画を撮りたいのかも微妙です。
しかし、そんな彼らにも、輝ける一瞬はあるんです。
なんだか国語の教科書に載っている、中島敦の『山月記』を思い出しましたね。
何かを目指して、それになれなくても、何者かになれれば上等じゃないですか。
人食い虎の人生も面白いかもしれません。
そんなロクでもない人間の心に響く、エゲつない青春映画。
夏と言えば青春映画ですが、新海誠アレルギーを発症されたような方には、
『暴力人間』の夏を過ごしていただきたいと思います!
このブログ6人ぐらいしか見てないみたいなんですが、全員そうなんじゃないかなぁ!
マジでおすすめですぜ!