第10回 おっさんが築くコンクリート製暴力神話『鉄男2』

どうも、次郎です。

 

皆さんは好き嫌いってありますか?

アレルギーとか関係なく、どうしてもこれだけは受け付けない食べ物。

誰しも一つはあるかと思います。

 

私はかなりハッキリしている方でして、紫蘇と大葉とパクチーが駄目です。

 

香りの強い、酸っぱい系のハーブとでも良いましょうか、

これらが一欠片でも入っていると、ゲハァッ!ですね。

 

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エスニック料理なんかで良くパクチーが使われていますが、

凄く美味しい、ご馳走なんだろうなと思いつつ、どうしても食えないんですよね。 

 

これはあらゆる趣味嗜好にも言えまして、

映画でいうと塚本晋也監督が私にとってのパクチーなんですよ。

ほんと、どれも凄く良い作品だってのは分かるんですけどね。 

 

しかしながら、「好き嫌いをすると大きくなれない」とは良く聞いた話。

私、未だ6割ぐらいしか大人ではない出来損ないなので、

成長・巨大化には殊更関心があります。

 

ここはいっちょ苦手を克服してでっかくなってやろうじゃねぇの。

そういう野心を胸に映画のご紹介です。

鉄男II/BODY HAMMER

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タイトル 鉄男 II BODY HAMMER
製作年度 1992年
製作国 日本
監督 塚本晋也
脚本 塚本晋也
音楽 石川忠

 

前作『鉄男』は1989年の作。

白黒の画面にガリッゴギガンギンゴンとメタルパーカッションが轟き、

人間と屑鉄が融合したグロテスクな野郎二人が、

ひたすら追いかけっこに興ずるというぶっ飛んだ快作です。

 

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全身にゴミ括りつけただけでこんなに格好良くなるもんなんですねぇ

 

田口トモロヲ扮するサラリーマン風の”男”が、

ある日突然、監督本人が演じる正体不明の”やつ”から襲撃を受け、

すったもんだの挙句に、ホモセクシャル的ニューワールドを開いて一体化。

最終的に世界中を錆び腐らせてや り ま く る ぞ ぉ ー !

という非常に雄々しいストーリーになっております。

 

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監督本人が怪演する”やつ” マラソン選手に憧れて足に鉄柱刺し込んだらこうなりました。

私はこの1作目を多分かれこれ20回ぐらいは観てるんですが、

私の苦手な塚本晋也感と、大好きな部分が凝縮されていて、

観ていると自分のゲロ啜り食ってるような気持になってしまいます。

 

ドリルチンポで女を刺し殺すシーンとか、

この監督は101%信用出来る男だ!って感じるんですけどねぇ。

 

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バイオレンスとはつまりこういうことです

 

そして私の苦手な、良く分からない気持ち悪い会話という部分もたっぷり。

例えば、田口トモロヲ扮する”男”藤原京演ずるの、

 

「もしもし…」「もひもひ♡」「もしもし…」「もひもひ♡」「もしもし…」

「もひもひ♡」「もしもし…」「もひもひ♡」「もしもし…」「もひもひ♡」

×10

 

という本当に分からない電話シーンがあるんですが、

どうも2人が恋人関係にあるということを示す以上の意味が無さそうなんですよ。

 

普通に喋ってよ !

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と、パクチー抜きのフォーを頼む碇シンジのような絶叫を上げてしまいそうです。

しかしながら、これはそういう味のものだから仕方がありません。

ただシンジ君が食べられないだけですからね。 

 

そんな塚本晋也節がビンビンビンな作品の続編、鉄男II/BODY HAMMER

一体どんなパクチー山盛り作品でしょうか。

 

さぁ・・・来いッ!

 

塚本晋也監督は自分の撮る映画について、こういった言葉を残しています。

 

「私が暴力映画を撮るときは、それは暴力についての映画である」

 

普段、我々は様々なエンターテイメント作品を通じて、

暴力というものを娯楽として日常的に楽しみ、消費しています。

 

水戸黄門みたいな勧善懲悪ものが良い例です。

カタルシスが訪れるのは、やはり悪代官を圧倒的な暴力で屈服させる瞬間でしょう?

本当に見たいのはボッコボコにぶちのめし、のめされる姿なんですよ。

 

それはあまりにもエグイものだから、そのまま出すと顰蹙を買ってしまいます。

それを正義だなんだと砂糖でまぶして飲み込みやすくしたものが、

エンターテイメントというものではないでしょうか。

 

塚本監督の作品はそういった娯楽作とは一線を画します。

暴力の持つ酷さ、エグさ、恐ろしさを切り取って、これでもかと描いてみせます。

 

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盾にされた幼児の手。塚本作品では、女子供は一貫して暴力の犠牲者なのです。


そして同時に、暴力の最も恐ろしい面。

暴力の持つ、抗いがたい魅力すらも、その一部として映して見せるのです。

 

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敵を殺してこの笑顔!

『鉄男』も『鉄男2』もそれは同じ。

報復によってエスカレートしていく暴力。

最終的に行き着くところは、世界の破滅と更なる流血の予感です。

まさに、『暴力とはなんぞや』という問いを追求した結果の答えでしょう。

 

まぁしかし、あれですよ、ええ。

俺のようなボンクラには、暴力の喜びさえ見せてくれりゃあ大満足ですよ!

 

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どうも!ボンクラです!

 

別にトム・ヤム・クンパクチーどけてエビだけ食ったって良いじゃないですか!

鉄男シリーズは最高の映画です!

 

さあ、ニンジン避けて食べちゃうガキ食い的に観ていきましょう。

一生クソガキ的な宣言をしたところであらすじです。

 

さぁ・・・来いよぉ!

大筋は"男"を理不尽に襲う謎の"やつ"との対決を描いた前作と同様です。

しかし、今回の”男”はなんとマイホームパパさん。

デパートで一家団欒の最中、謎のハゲマッチョ集団に襲撃されます。

 

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こんなのが日常空間にワラワラ湧いてくるサマはちょっとガキ使っぽいです。

 

突然ぶん殴られるわ、謎の注射器をぶち込まれるわでもう散々。

挙句の果てにガキンチョを攫われ、大変だ―!と、

追いかけた先の屋上でボコボコボコの返り討ちにあってしまいます。 

 

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妙に抑揚のない「落とすぞ~」という台詞にパクチーを感じます

貧弱一般サラリーマンである"男"にはなすすべがありません。

全く良いところ無くぶちのめされて、屋上から吊り下げられ、

「お前とガキをさ、一緒に落としたらどっちが先に潰れると思う・・・?」

 

と、イカレてしまったガリレオ・ガリレイ先生のような殺し文句まで言われる始末。

"男"が「こ、殺してやる~」と歯を食いしばっても、

睨んでるんだか泣いてるんだか分かりません。

 

はてさて、あわやというところでしたが、嫁さんの助けがあり二人は無事でした。

幼い息子も無事でほっと一息・・・

しかし、”男”は浮かない顔です。

 

「ぢ、ぢぎしょう・・・」

 

そりゃあ穏やかではいられませんよね。

一家の大黒柱が緊急事態に何も出来ず、嫁さんに救われたんですから

自尊心をけちょんけちょんにされた彼の心に渦巻くのは、恐怖、憎しみ。

そして圧倒的な暴力性への憧れでした。

 

さぁ来い・・・来いよぉ!

 

シーンが移り変わって、どこかのスポーツジム。

"男"は筋肉トレーニングに励んでおりました。

 

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うーん、上がらないよう

 

筋肉ハゲ集団の影響を受けて始めた筋トレですが、御覧の通り全然ダメダメです。

 

「観葉植物の様子が心配だからもう帰ろうか」

 

などと、衝撃的なパクチー発言をして諦めようとしますが、

家族の咎めるような視線にスゴスゴとマシンの元へ戻ります。

 

筋トレマシンにしがみついて思い返すのは筋肉ハゲ集団のこと。

憎いあんちくしょうへの憎しみが再び吹き上がった、その時です!

 

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ガショーン!

あ、上がった!?

"男"の憎しみと暴力性が露わになる時、彼は超人的なパワーを発揮するのです!

「こりゃあ良いや、儲けたな」

この結果に満足した男は意気揚々帰宅します。

 

が、相手は極悪筋肉ハゲ軍団。

なんとアジトのインテリアまでもが筋トレしています。

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インテリアの皆さんです

こんな連中に一朝一夕の筋トレで敵う訳がありません。

今度は自宅凸された挙句、またしても子供を攫われてしまいます。

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「こ、この野郎・・・もう許せねぇ!」

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遂に”男”の怒りが爆発した!

と、思ったら本当に爆発してしまいました!

”男”の身体から生えた謎の銃口が、ガキンチョを吹っ飛ばしてしまったのです!!

 

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皆大好きギーガー風です

怒りの余り、テメェでテメェの息子を吹っ飛ばしてしまった”男”はもう止まれません。

彼の怒りと暴力性を反映するかのように人間離れしていく肉体。

全身鋼鉄のまさしく鉄男と化して全員皆殺しです!!!

 

やりまくるぞおおおおおお!!!!!!!!

 

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最終的にはこんなんですぜ!

 

ラストはやはり、敵のボスとの一騎打ち。

筋肉ハゲ集団を主宰し、ファイトクラブめいた組織を作っていた”やつ”との決闘です!

 

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男の勝負ときたらやはりモヒカンですね!

言うまでもなく、『タクシードライバー』のトラヴィスを意識したモヒカンですが、

後年スコセッシ監督の作品に、”やつ”を演じた塚本監督自身が出演することになるとは思いもよらなかったでしょうね。

 

そんなこんなで、

最終的には脳汁吹きまくりの血管ビキビキバトルが繰り広げられる本作。

塚本晋也作品の中ではダントツで好きです!

 

非常にエンターテイメント性が高く、

そして独特のセンスが、磨かれたメタルのようにギラついています。

 

なんだか知らないけど人を殴りたくてしょうがない。

電車の座席に座っている相手のドタマにスマホを叩きつけたくなる。

 

そんなあなたの心にガンガンギンゴゴギガシャンと響く一作になるでしょう。

内なる暴力衝動が手遅れになる前に、チェックしてはいかがでしょうか。

 

最後の一押しになるかもしれませんが、きっと後悔はしないはずですよ!